2006年06月12日
2006.6.12
豆腐屋ジョニーは朝が早い。
フクロウの眠る頃、ジョニーはゆっくり毛布を剥いだ。
まだ朝日の射さない窓に向かって、ジョニーは深々とお辞儀をする。
そうすると、今日一日のエネルギーが、指先まで満タンになる気がするのだ。
窓から、クチナシの匂いがほのかに香った。午後から雨が降るかもしれない。
ジョニーはそれから拭掃除をする。
この時刻が、埃達が一番静かに沈澱してると、昔おばぁちゃんに習ったからだ。
毎朝、決まって掃除をするのは、別に、ジョニーがきれい好きだからじゃない。
一般に思う「そろそろ掃除でもするか」のタイミングがわからないだけだ。
ジョニーはわからないことがまだたくさんある。わからないことは、いくら考えてもわからない。
だから、掃除は毎日することに決めた。
一通り部屋を清めると、ジョニーは自転車で町を一周する。雨の日も傘はささない。
規則正しく自転車を漕いで、町の変化に気を配りながら、さりげなく精神を統一させる。
そのうち、自分が内側から、張り詰めてピンとなる感じがなんともいえない。
息は絶対乱したらダメだ。
一等高台にある塔に着くと、天気の日、そこからだけ見える島を見るのを楽しみにしている。
正確には、そこから島が見えると、今日は天気だと思うのだ。
ジョニーは、いつかその島で暮らしたいと思っている。
豆腐屋は、水のきれいな海辺の町がよく似合うような気がするからだ。
豆腐を売り歩くラッパの音色と船の汽笛と海猫の鳴く声…
そのイメージは、ジョニーの想像する幸福に限りなく近かった。
ジョニーの幸福は、あの島にある。ジョニーは島の名前を知らない。
町を一周して部屋に帰ると、パンを食べたら、もう店に出る時間だ。
太陽は、いつの間にかすべての世界を明るくして、キラキラ…、
いろんなものにそれぞれ色を加えている。
確固たる存在のない、色という事象も、以前から気になる、わからないのひとつだ。
僕の好きなあの色は、みんなにはどんなふうに写っているの?
そんなこと、とても怖くて一生聞けない、と、ジョニーはまた心の角でつぶやいた。
店にもジョニーは自転車で行った。
今日もジョニーは、豆腐屋で店番をしている。
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- at 16:52
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